I Wanna Cry


【 1.学校 】

 また、こんな早く家に帰ってきたら、お母さん怒るだろうな。

 眉間に深い皺を寄せて、ふーと大きな溜息と共に肩をがっくりと落とすお母さんを容易く想像することができた。

――学校楽しくないの?

 きっとそう言われる。私はなるべくお母さんを悲しませないように、言葉を選んで告げるだろう。
 大丈夫。今日も上手く言える。
 嘘をつくことに関しては、私天才だから。

 大勢の中にいると息苦しくなる。
 右を見ても、左を見ても、同じ年頃の男の子、女の子ばかり。
 学校なのだから仕方ないのだけど、私には異様な世界に映る。
 同じ服を着さされ、同じ事を学ぶ。
 皆、やりたいこと、興味あることは違うのに、ここでは全員誰もが同じ事を学ぶのだ。
 授業中、教室内を見渡す。
 熱心に授業を聞いている子もいれば、寝ている子もいる。
 漫画読んでいる子もいれば、こっそりメール打っている子もいる。
 それぞれ自分の時間を有意義に過ごしている。
 でも、このクラスで授業を受けていることには間違いない。

 最近よく考える。
 私って何なのだろう?って。
 何で生きているのだろうって。

 ありふれた高校一年生の女子生徒の私は、いつか、どこにでもいる大学生になり、いたってごく普通の一般社会人になるのだろう。
 そして、誰かと恋に落ちて、結婚するのだろうか?
 そんな先の私なんて想像できない。

 だって、私は……。

 まだ、恋をしたことがない。
 人を愛することを知らない子どもなのだ。 

 この道を曲がれば家に着く。
 気分が悪くなったので帰りますと担任に告げた時、担任は呆れたように私を見詰めた。
 入学してから、今日まで何度気分が悪くなったと言って早退しただろう。

「単位とれないと、進級できないわよ。次はもう少し頑張ってみなさい」

 担任は忠告した。
 それくらい言われなくてもわかっている。
 皆と同じように進級できなかったら、困るのはあなたなのよと親身になってくれているが、本当は、自分のクラスから進級できなかった落第生を作りたくないだけかもしれない。
 私は知っている。
 口先だけで、優しい、思いやりのある言葉を告げるだけの人がいることを。
 本当は自分の事を優先に考えている人がいることを。

 本当に私のために言っているのなら、放っておいて欲しい。

 こんなことばかり考えてしまう。
 だから、疲れちゃうのかな。
 もし、色んな話せる友達がいたら、少しは気が楽になっていたのかもしれない。
 彼女達と同じように他愛のないことをしゃべって笑うことができたら……。
 私は、それができないから、こうやって一人で考えるしかない。そして、答えを見出せないまま、時だけが無情に流れていく。

 私は家へと続く角を曲がらなかった。そのまま真っ直ぐ道を歩き続けた。
 冷たい秋風が私を非難するかのように通り抜けていった。


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