I Wanna Cry


【 11.メール 】

 手渡されたメモを見ながら、間違わないように一字一字確かめながら、携帯のメールアドレスを入力した。
「山崎」はすぐ変換できたけど、「てつや」は「徹夜」と出て、思わず笑ってしまった。

 ―― 親父が何日も徹夜して考えたから、テツヤなんだと。

 徹也さんのセリフが蘇った。
 家に帰り、お母さんに私の名前の由来を聞こうと思ったけど、その前に、逆に今日は誰とどこへ行ったのとしつこく聞いてきた。うんざりした私は好奇心丸出しのお母さんを振り切って部屋に閉じこもった。

 晩御飯の時、しつこく聞いてくるだろうな……。
 教えてくれなきゃ、明日のお弁当作ってあげないとか言いそう。

 お父さんは、時々子ども地味たことをするお母さんとよく結婚したなぁって感心する。
 よほど寛大か気にしていないのか、盲目的に愛していないと許せないと思う。
 何の話をしていたのか忘れたけど、お母さんが「愛は偉大なのよ」と言い切ったセリフは、今でも私の心の中で強く残っている。

「愛は偉大なのよ……か」

 私は声に出して言ってみた。
 私が徹也さんに抱いている恋心はやがて、愛に変わるのだろうか?
 それとも、恋のまま終わりを迎えるのか……?

 ベッドにごろんと横になって今日を振り返った。

 ―― 今度の日曜の3時は入ってるかもな。日曜はいつも混んでいて、猫の手でも借りたいって言ってたから。暇だったら来いって言われているしさ

 あの時の言葉は、嘘だった。
 ショックで目の前が真っ暗になって泣きたくなったけど、真摯な態度で謝ってくれた。

 そして……。

 私は握り締めていたメモを見詰めた。
 くせの無い綺麗な字で書かれたメールアドレス。
 彼の文字を見ているだけで自然と顔が緩んでくる。
 小さなメモだけど、私の大切な宝物だ。

 私はベッドから起きると、引出しから裁縫道具を取り出し、余っている布切れを使って小さな袋を作った。
 その中に、メモを入れた。
 使っていた携帯ストラップをはずし、そのかわりに作ったばかりのものを通した。

 私のお守り。大切なお守り。

 ―― 由佳ちゃん。

 名を呼んでくれた声を思い出しながらお守りをぎゅっと握り締めた。

 徹也さんは今、何をしてるんだろう……。


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