I Wanna Cry
【 19.最後のメール 】
目覚ましが起床時刻を告げる前に、私は目が覚めた。 カーテンの隙間から、光が差し込んでいる。 私は寝転んだまま、目覚ましを止めた。 そして、ゆっくりと起き上がり、チェストの上に置いてある手鏡を手にとった。 鏡には、醜いくらいに腫れあがった瞼の私が映っていた。 徹也さんと別れてからずっと泣き続けていた。 部屋にこもったまま、ご飯も食べずに泣き続けた。 家族が寝静まってからお風呂に入っている時も涙が止まらなかった。 一生分の涙を流したような気がする。 明日は学校がある。泣き止まないと、瞼が腫れあがり大変な顔になるくらいわかっていた。 心では思っていても、涙は溢れ止らなかった。 徹也さんに嫌われたかもしれない。 そう思うだけで、また涙が出てきた。 私はベッドの中、丸くなって泣き続けた。 「由佳ちゃん! 起きなさい!」 中々起きてこない私に苛立ったお母さんは勢いよくドアを開けた。 「……行かない。今日は休む」 丸くなったまま私はこたえた。 「何言ってるの? 具合が悪いわけじゃないでしょう?」 「嫌だ。行かない。行くくらいなら死んでやる!!」 本気だった。泣き顔を学校の皆に見られるくらいなら、死んだ方がましだった。 「由佳ちゃん?」 「本気だもん! 本気で本気で死んでやるもん!!」 声を放ち泣きはじめた私にあきれかえったお母さんは、「今日だけよ。明日からは行くのよ!」と怒って出て行った。 どれくらい、時間が経ったのだろうか。カーテンを締め切ったままの薄暗い部屋ではわからない。微かだが、一階からテレビの音が聞こえる。お母さんが一人見ているのだろう。 急に空腹感に襲われ何か食べようと、のっそり起き上がり、時計を見た。 10時32分。 2時間目が終わった時間だ。午前でも、午後でも無い中途半端な時間帯。 私はカーテンを開けた。 水溜りを残して、道路はすっかり乾いており、昇りきった太陽がまぶしかった。 電源を切った携帯を手にとり、電源を入れる。 メールが一件入っていた。もしかして、徹也さんかと思うと指先が震えた。 私は心を落ち着かせてから、メールを見てみると迷惑メールだった。 がっくりきたたと同時に、ホッと息をなでおろした。 もし、徹也さんから連絡をしないでくれというような内容のメールだと立ち直れない。 徹也さんは、今、何しているんだろう。 まだ、怒っているんだろうか……。 私は震える指でメールを打った。 これが最後のメールになるかもしれない。 ―― ごめんなさい。昨日は変なこと言っててごめんなさい。 嫌いにならないで下さいと書きたかったけど、止めた。 それは、私の願いだ。 私を好きになるか嫌いになるかは徹也さんが決める。 でも、願わずにはいられなかった。 嫌いにならないで下さい。 頬に涙が伝った。 涙って、こんなに出るものなんだ。 たった一人の人で、こんなにたくさんの涙を流したことなんて無かった。 しばらくして、メールの着信音が鳴った。音だけでわかる。その曲がなる時は徹也さんからのメールだけだ。 私は動けなかった。 もう、二度とメールをしなくていいというメールだと思うと、怖くて動けない。 指先が震えて上手くメールを開けない。 やっとの思いでメールを見た。 悪かったから始まっていた。 ―― 大人気ない事をした。悪かった。由佳ちゃん、ハンカチ忘れていっただろう? 4時15分までなら家にいるから、時間があればいつでもいい、取りにおいで。水曜日はダメだけど。 徹也さんが怒っていないとわかると、嬉しくて涙が零れ落ちた。私は涙を拭きながら返信した。 ―― わかりました。明日行きます。 私は携帯電話を握り締めたままベッドに転がった。 徹也さんからのメールを何度も読み返し、昨日作ったストラップのハートを指でつついた。このハートが、私の思いを伝えてくれたような気がした。 しばらくして、徹也さんからの返信メールがきた。 ―― わかった。明日な。 明日、会える。 そう思うだけで、萎んでいた心が一気に膨れ上がった。飛び上がってしまうくらい嬉しい。 興奮も冷め、冷静になってくるとある言葉が気になってきた。 ―― 水曜日はダメだけど。 水曜日は休みだって言っていた。 休日、どこかへ出かけるのだろうか。 誰と? その先は考えたくなかった。 もしかして、彼女? 徹也さんに彼女がいてもおかしくない。 私は本当は聞きたい。彼女いますかって。 でも、聞けずにいる。 怖いから。 いるよって言われるのが怖いから。 いるって言われたら、私はあきらめなくっちゃいけない。 私はまだこの恋を終わらせたくない。 だから、一番聞きたいことを未だ聞けずにいた。 徹也さん、彼女いますか? 好きな人、いますか? |