I Wanna Cry


【 23.12月5日――由佳 】

 成績のいい子は、試験期間中、いきいきとしていると思う。
 左斜め前の部厚いメガネをかけたショートヘアの西村さん。
 試験中は目が輝いているもん。
 もうすぐ、2学期が終わろうとしているのに、まだ話したことの無い子の一人。
 と言っても、私の場合、ほとんどの子としゃべらないのだけど。

 試験前は勉強するけど、勉強した分成績に反映されることは無い。
 どんなに頑張っても、並だ。
 少しでもさぼると赤点ラインギリギリになる。
 通知簿は6の大行進で、1、2つだけ「5」か「7」があるくらい。
 家庭科が被服だったら、「8」ぐらいになってるかもしれないけど。

 あれから何度か徹也さんにメールを送った。
 遅れがちになるって言っていた通り、徹也さんからのメールは数時間遅れか、こなかったりする。

 徹也さんの誕生日は、期末テスト期間中だ。
 誕生日プレゼント贈りたくて、好きなものは何かとメールで尋ねたら、「聞かれるとわからないもんだな(笑)」と返ってきた。
 私には、遠まわしにプレゼントはいらないと言っているように思えた。

 迷惑なのかもしれない。
 徹也さんには将来を約束した彼女がいるのだけど、私を邪険に扱えなくて、当り障りの無い程度につきあってくれているのかもしれない。
 そんな事を考え出すと、大事なテスト中だというのに手がつかない。
 最悪な状態のまま、期末テストに突入し、12月5日を迎えた。

 3時間目の数学のテストを終え自宅に戻ると、徹也さんに「お誕生日、おめでとうございます」とメールを送った。
 送信後、私はベッドの上でごろんと横になった。
 まだ、テストは残っているけれど、勉強をする気になれない。
 ぼんやりと染みのついた天井を眺めていると、やがて歪んできた。
 また、マイナス方向へと考えてしまう私の悪い癖が出始めた。

 徹也さんは、大好きな人に誕生日を祝ってもらい、幸せな一日を過ごしているのかもしれない。
 私はベッドの側に飾ってある手作りのクマのぬいぐるみを抱きしめ泣いた。

 私は毎日、徹也さんのことを想っているのに、彼は別の人を想っているのだと想うと悲しくてたまらなかった。
 片思いほどつらいものなんて無いと私は知った。
 どちらに転ぶかわからない中途半端な状態。
 一歩勇気を出して踏み出せばこの苦しみ悲しみから解放されるのかもしれない。
 けれど、私にはできない。
 徹也さんは私の心の支えだ。
 支えを失ってしまったら、私きっと死んでしまう。
 何の生きがいをも見出せぬまま、徹也さんと出会う前の、音も色も無い世界で生き続けなければならなくなる。
 失いたくない。だから、私は何も聞けぬままにいる。

 その日、メール受信を告げる音楽は鳴らなかった。


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