I Wanna Cry


【 2.新学期 】

 春がきた。

 生命力溢れるこの季節は、私を憂鬱にさせる。
 新しく生まれ変わりなさいと押し付けてくる。

 変わりたいと思っていても簡単に変われるものじゃない。
 大きなきっかけが無い限り無理。

 私は、徹也さんに恋をして変わった。
 色彩も音も無い孤独な空間に彩りを与えてくれた。
 世界が動き始めたあの瞬間を私は決して忘れることは無いだろう。

 これっぽっちのことで、喜んだり、泣いたりする自分に驚くと同時に愛しいと思った。
 徹也さんに会って、私は初めて自分を好きになった気がする。

 徹也さん。
 徹也さんとはあの日―― ヴァレンタインディの前日会ってから一度も会っていない。
 会っていないんじゃなくて、もう会えない。
 徹也さんは好きな人がいると言った。
 私がどんなに徹也さんを想っても、振り向かないと。

 泣きながら帰ろうとした私に、徹也さんは車で送ってくれた。

「泣いていると注目あびるぞ」

 泣き顔を見られたって構わなかった。
 けど、私はどうしようもない子だ。
 一緒にいたくて、車に乗せてもらった。
 車の中で私はずっと泣き続けていた。徹也さんは何も話し掛けてはこなかった。
 失恋の痛みは自分で癒すしかない。
 そんな風に徹也さんは言っているようだった。

 4月、私は2年生になった。
 元クラスメイトの女の子が一人いたけれど、彼女は中学時代に仲の良かった子と楽しそうにしゃべっている。その子と同じクラスだとわかるまでは私と一緒にいて、新しいクラスについて色々話していたというのに。
 私は代役なんだ。
 私に話し掛ける子なんて誰もいない。
 一人席に座っている。
 ざわめく教室は遠まわしに私をここから追い出そうとしているように感じる。
 ここにあんたがいるのは場違いなんだよって。
 いつものことなんだけれども、すごく淋しい。
 淋しくて、苦しくて、私はポケットに入れてある携帯電話を出して、メールを打とうとした手を止めた。
 打てなかった。

 もしかすると、今、徹也さんは好きな人と一緒にいるかもしれない。
 好きな人と一緒にいる大切な時間に、女の子からメールがきたら嫌な気分になるだろう。
 私は、携帯電話をポケットに入れなおした。

 ふと視線を感じて目をやると、2列左側の斜め前に座る男の子と目があった。
 でも、彼はすぐにそっぽ向いた。

 淋しい。
 誰もいない。

 学校なんて嫌い。

 徹也さんに会いたい。
 一目でいいから。
 会いたい。

 涙が零れ落ちそうになるのを必死になってこらえた。


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