I Wanna Cry


【 8.期待と不安 】

 洗った髪を乾かし、後は寝るだけだった。
 数学の宿題はわからないところが多すぎてほとんど出来なかった。
 明日、当てられたら困る。あの先生は気まぐれに当てるので、授業が始まると毎回ビクビクする。
 私はため息をつき、ベッドに入ろうとすると、長い間鳴らなかった彼専用の着信音が鳴って驚いた。
 喜びよりも困惑してしまい、机の上に置いてある携帯電話のメールをなかなか開くことができなかった。

 ―― 一歩踏み出す前に、整理しなきゃいけないことが多すぎる。

 彼の言葉が甦る。

 私宛へのメールは、整理しなければいけないものの一つなのだろうか?

 よくないことを想像すると、胸がキシキシと軋んだ。
 恋を終わらせる言葉が綴られているのなら読みたくない。
 けれど、内容が気になって寝れやしないだろう。
 
 私は心を決めて読むことにした。だが、携帯を触る手が震えて上手く操作できない。
 
 もし、別れを意味する言葉なら、きっぱりあきらめよう。
 ほんの少しだけでも好きになれた人がいた。それだけで充分じゃない?

 深く落ち込まないように自分を励ます。
 だが、やはり簡単にあきらめれない自分が、わずかばかりの可能性に期待していた。

 私は心を落ち着けてから、メールを開いた。

 素っ気ないたった1行の文章だったけど、彼は書くまでにどんなに悩んだのかは伝わってきた。

 泣く準備はできていた。

 涙は悲しみの表現だった。
 今、私の頬伝う涙は予期せぬ幸せに喜び、流れ落ちていく。

 彼の気持ちが私に向いている。
 
 舞い上がってしまわないように、注意深く慎重に言葉を選び、返信した。


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