I Wanna Cry


【 11.待つ幸せ 】


 待つのは嫌いじゃない。
 
 彼女がどんな服を着て、今日はじめて会った時、どんな表情をするのか。
 想像するだけで楽しい。

 予定通り、駅に電車が到着したようだ。電光時刻表の一番上の一行が消え、しばらくすると、大勢の人が改札口から出てきた。
 人ごみの中から、一人の子を素早く見つけた。
 駆け出しそうになる想いをこらえて、しばらく離れた場所から眺めていた。

 待ち合わせの時間ギリギリにやってきたあの子は、必死な表情を浮かべて待ち人を探す。
 いないとわかると、ふぅっと息をつき、通行人の邪魔にはならない場所へと移動した。

 彼女は少し緊張しているようだ。表情がやや硬い。
 やがて、バッグからキャラクターが描かれた大きなハンドミラーを取り出すと、手ぐしで髪型を整える。

 誰に少しでも綺麗にみせようとしているの?

 俺のため? 

 そんなことを考えると楽しくなる。

 俺はあの子に待たれているんだと、実感するとうれしくなる。
 
 俺を待つ人がいる。
 それだけで幸せになれる。

 約束の時間を5分すぎても来ない人を心配しはじめる。
 俺に何らかのアクシデントがあったと考えだしたのだろう。表情が険しくなっていった。

 ここにいると教えてあげれば、曇った表情から救い出せるのに、まだ少し表情がくるくる変わる彼女を見ていたかった。
 10分経っても来ない俺に、苛立ちを募らせ、遅いと責められるのもいいと思った。

 あの子に罵倒されても、それはそれで楽しい。
 あの子がいるだけで充分だ。他に多くは望まない。
 

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