I Wanna Cry
【 18.部屋 】
出かける前にこっちへこいって手招きされたから、期待してそばに行ったのに、頭なでられただけじゃ、正直不満だ。 学校が終わって、急いでやってきたのに。 ぎゅっと抱きしめてくれてもいいじゃないの? 何だか私、欲張りになっている。 出会って間もない頃は、メールの一つ着ただけで、飛び上がるほどうれしかったのに。 些細なことで喜ばなくなっているのは、それが当然だと思っているからだろうか? 見送った後、一人、部屋でくつろぐ。 冷房が少し効きすぎている感じがしたので、私は温度を上げた。 電気製品が稼動している音だけが聞こえる。 部屋、こんなに広かったっけ? 私は徹也さんの家の中をうろうろする。 商売柄、水周りは綺麗だけど、部屋は相変わらず乱雑だ。 複数の情報誌は床に置きっぱなしだし、青年週間漫画誌も3か月分くらい部屋の片隅に積み上げている。 取り込んだものの、たたんでいない洗濯物がベッドの横に散らかっている。 たたんだ方がいいのかしら。 私はじっと眺めた。 洗濯したものは、Tシャツとかタオルだけじゃないはず。 無理。きっと、無理。私は大きく首を振った。 下着なんてたためない。 恥ずかしくなった私はテレビの前に移動した。 リモコンをとり、電源を入れる。 少し前に放送されていたドラマの再放送をやっていた。 私はぼんやりと見ている。 徹也さんがいないと、こんなにつまらないなんて思ってもいなかった。 何もかも色あせて見える。 早く帰ってきて欲しい。 出て行く前に徹也さんが確認するように言った言葉を思い出して私は笑った。 ―― まさか、2時までいないよな? 本当、心配性のお母さんそっくりだった。 大丈夫。心配しなくても、暗くなる前に帰るから。私は心の中でそっと呟いた。 ―次へ― ―前へ― |