I Wanna Cry


【 13.手をつなごう 】

 何が原因なのかわからない。
 突然、彼女の表情が曇り始めた。

 俺、まずいこといったのか?

 振り返ってみるが、さっぱりわからない。何気ない一言に傷ついたのだろうか? 年頃の女の子は難しい。

「コアラだぞ」
「……うん」

 楽しみにしていたはずなのに、コアラを見ても、嬉しそうにしない。
 俺のテンションもだんだん下がってきた。
 
 女って、何を考えているかわからなくなる。
 言葉が通じない動物よりも、面倒くさい生きものに変わる。
 
 彼女の機嫌がよくなるような物はないかと辺りを見渡したが、コアラ以外にぱっとしたものはない。
 行きたがっていた動物園から出るわけにも行かず、この状況を打破する話題もない。
 
 女子高生が好む話は何だろう。彼女が喜ぶ話題は何だろう。
 考えながら歩いているうちにクマ舎までやってきた。クマはこちらに背を向けてごろりと寝ている。休日のおっさんっぽい。

 ―― あのクマ、おっさんくせぇなぁ。

 そんなことを言ったら、彼女の機嫌はますます悪くなりそうだ。
 どうすりゃいいんだよ。
 我ながら情けないくらいに何も思い浮かばない。このままどんよりとした空気のまま居続けるのに耐えられなくなり、思い切って尋ねてみた。

「どうしたんだ?」
「えっ?」

 彼女は驚いてこちらを見る。

「俺、何か気に障るようなこと言ったか?」
「ううん。私の考えすぎ」

 精一杯笑ってみせたが、俯いた後、ため息をついた。
 俺には話せないってことか。頼りにならないってことか?

 何やっているんだろう。俺。
 
 はしゃいでいる子どもの声がやけに耳障りになってくる。
 にこにこと微笑みかける太陽も憎らしい。
 
 このままじゃ、最悪じゃん? 

 いつの間にか歩く速度が違っていた。彼女は5歩ほど後をとぼとぼついてくる。俯いたままどんよりとした空気を背負って。
 
「こっちこいよ」
 
 手を差し出したが、彼女は躊躇している。
 もどかしかったので、強引に手を掴んだ。

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